話の方向性を失った
※DRRR!!
※静雄と臨也
※静雄が別人レベルで大変きもちわるいことになっております
※それでも大丈夫だよ!という方のみどうぞ。
朝だ。太陽がまぶしい。どうやら今日も俺たちは路上で夜を明かしてしまったようだった。
と思ったところで目の前の奴が「朝だ」なんてつぶやくもんだから、なんだか変な繋がりができてしまったような錯覚に陥って、そういやもう8年の付き合いになるんだし、なんて、眠ってない頭はけして普段なら思いもしないような考えを俺に降らしてみせる。殺し合いで明かした夜に意味などあるはずもないのに、「・・・朝だな」と答えてしまったらもうダメだった。疲れた瞳で奴のところどころ切れたくちびるに狙いを定めて触れ合わせてみる。視界の端で奴の目が大きく見開くのが見えた。
がしゃぁああん。物が飛んでってどっかにぶつかって割れて壊れる音がした。
ひいい、と叫んで尻を向けて逃げ出す男を見送れば、数百メートルは離れた場所にいたトムさんが近寄って来て「今日どうしたよ」と小声でささやく。きっと俺を刺激しないようにと気を使ってくれているのだろう。トムさんは本当にいい人だ。サングラスを掛け直して「別になんでもないっす」と返す。トムさんは首を傾げて「ならいいけどよ」と言った。トムさんが首を傾げるのも当然の話だ。今日の俺はいつにも増して最高に荒れていた。それは当然臨也のせいだ。だが俺のせいでもある。いやでもやっぱり臨也のせいだ。そこんところは譲れねえ。
今朝、一晩中殺し明かした俺たちは路上で朝を向かえ、そして俺は何を思ったか何を間違ったか朝焼けをバックにスズメの声をBGMにノミ蟲にキスをした。目を大きく見開いた臨也は次の瞬間俺の頬に思い切り平手を加えた。パチィインとイイ音がしたが俺はまるで痛くはなかった。代わりにノミ蟲の手が腫れていた。その手を庇うように抑えて臨也は俺の方を睨み付け「な、なにすんの」と言った。いや、叫んだ。俺はすこし考えたあとで「・・・キス?」と言ってみた。
「なな、ななに考えてんの?ばかじゃないの?」
「ばかじゃねえよ」
「じゃあなに?なんなの?なに考えてんの?」
「・・・うっせえなしらねえよ」
してみたかっただけだよ、と言ったら臨也は今まで見たこともないような顔をしてぐーで俺の顔を殴って逃げた。大して痛くもなかった。が、鼻血が出ていた。
疲れていただけだ、といえばそれだけの話だ。それだけの話なんだ。なんだけど。
あんとき臨也は傷ついた顔をした。それはあいつらしくねえ人間の顔だった。それを見て俺も傷ついた。ここが問題だ。ノミ蟲が傷ついたってことはまーどーでもいい。それはあいつの勝手だ。俺のしったことじゃねえ。だけどそれでなんで俺が傷つく必要がある?他の人間なら別だ。でもあいつはノミ蟲だぞ。俺が心を痛める部分なんか微塵もないはずだ。このことを考えるとすごくむしゃくしゃする。朝からずっとだ。ああちくしょう。なんで俺がノミ蟲なんかのために頭使って悩まなきゃなんねんだよ。あーくそ、ちくしょう。つーかそもそもなんで俺はあいつにキスなんかしちまったんだろう。だれにもしたことなんかねえのに。ん?・・・ちょっと待て。これってもしかしてファーストキスなんじゃねえか?俺もしかしてファーストキスをあのノミに・・・?え、まじか。思わずぐああ、と呻いて頭を掻きむしると「ほんとに大丈夫か・・・?」と言ってトムさんが心配そうに覗き込んできた。おまえもう今日上がっていいぞ、とその顔のまま言う。ああ、本当にいい人だ。こういう人にキスするんならわかる。トムさんになら俺、キスとか色々、してもいい。ってアレ?ダメだ、今日の俺は本当におかしい。これもそれもあれもどれも全部ノミ蟲のせいだ。「すんません、失礼します」とトムさんに頭を下げて、俺はその足で新宿へ向かった。
ドアをノックすると何の物音もしなかったのでドアをぶち壊して部屋へ入った。ドアを片手に持ったまま部屋の奥へ入っていくとうつろな目をした臨也がソファに座っていた。
「・・・シズちゃん、弁償」
「うっせ」
はあ、とためいきを吐かれた。いつも異様なまでにベラベラベラベラしゃべり倒す臨也がまったく口を開こうとしない。
「・・・朝のこと怒ってんのか」
「べつに」
「怒ってんだろ」
「だからべつに怒ってないって言ってんだろ帰れよ」
「あーてめえにちょっと聞きたいことがあんだよ」
「・・・なにかな」
「おまえ今朝の・・・その・・・やだったか?」
「悪いけど思い出させないでくれない俺朝からすごい努力してんだからね死ねよ」
「いいから答えろよ」
「なにその華麗なまでのスルー嫌だよ決まってんだろ俺はシズちゃんと違って変態じゃないんだ」
「俺は変態じゃねえよ。そうじゃなくてその・・・」
「なんなの」
「ファーストキスだったんだ」
「・・・はい?」
「ファーストキスだった。それをおまえに捧げちまったっつーありえねー自体に対して俺はどういう態度を取ればいい」
「いやしるかよ。つかなんだよ。なんのカミングアウト?」
「そういうカミングアウトだ。で、どうすればいい」
「しるかよ。ねえもういいから死ぬか帰るかしてくれない?」
「嫌だ。ところで俺はどうしたらいい」
「だからしるかって。好きにしたらいいじゃん俺関係ないし」
「けど下手したらまたおまえにキスしたくなりそうだ」
「なんなのもうシズちゃん今日ぜったい変だよ!わかったもう歳だから徹夜が効いてるんだわかったいいよ寝ろよベッド貸してやるから!寝ろ、もう!」
「有り難えがおまえのベッドとか入ったらなんか変になりそうな気がする」
「やめろ!!もう十分変だ今日のシズちゃんは!!!」
「じゃあ借りていいか」
「ダメ!!ああもうどうしろっての俺だってどうしたらいいかわかんないんだよシズちゃんが変なことするから!!」
「変なことって言うな」
「変なことだろうが!!あのさ、じゃあ逆に俺も聞いていい?シズちゃんどういうつもりで俺にあんなことしたの」
「おまえそれ今朝も言ってたよな」
「いいから答えろよ」
「・・・してみたかったから・・・いや、ちがうな。なんつーか、そういう感じだったから?」
「そういう感じじゃなかったよ?!すくなくとも俺は!!」
「あーもーうっせえな俺だってわかんねえんだよなんかおまえとそうしなきゃいけないような気がしたんだよしゃあねえだろしちまったんだから」
「つまり理由とかはなくしたんだね?俺のこと好きになったとかそういう阿呆みたいなことはないんだよね?」
「いやでもずっと考えてたんだがこうして見てっとおまえかわいく見えなくもないよな」
「やめて!!!!」
「・・・てめえよお、忘れてえのになんでそこまで理由とかにこだわってんだ?」
「・・・わかんないよだから言ってんだろ俺だってどうしてこんな気になってんのかわかんないんだよ」
そう言って臨也は膝を抱えてソファの上で丸くなった。まじで朝からずっと悩んでいたのか眼が赤い。「なあ臨也」声をかけると、ん、と目だけでこちらを見上げてくる。その顔に向かってかるくかがむようにしてもういちどキスをした。臨也が固まる。
固まったままの臨也に向かって「・・・わかったか?」と聞いた。
「なななにが?」
「わからなかったことが」
「わかんないよシズちゃんがバカだってことしかわかんないよ!」
「俺はわかった」
「はあ?なにが」
「わからなかったことが」
「俺にキスして?」
「ああ。おまえは今朝の嫌だったっつったけど俺はどうかわかんなかった。けどいまわかった。俺はおまえとキスすんのは嫌じゃねえ。つまりだ」
「・・・つまり?」
「おまえ相手なんてくそムカつくがファーストキスを捧げたっつー事実は認めてもいい」
そんでまたおまえとキスしてやってもいいよ。そう言って奴の瞳を覗き込んだら目を大きく見開いて、それからばかじゃないのとつぶやいてうつむいた。黒髪の間から覗いた耳は気のせいでなく赤く見えた。
言葉にできない
久々の精神病的衝動。
最近落ち着いててなかなか安定してるなーこれいいかんじなんじゃね?回復に向かってね?とか楽観的に考えてたんだけどどうやらただ単に嵐の前の静けさ的なアレだったようです。勘違いさせやがってちっくしょ!←
どんな感じになるのかってのは言葉にすんの難しいので割愛。でも今回はちょっと危なかった。下手すりゃ母親もろとも大怪我するとこだった(・・;)
人格が変わったって感じじゃあないので、何をしたか、何を言ったか大体覚えてるんですが、自分の体に自分の声で、「死ね!死ね!」って連呼されんのは、なんというか、かなり複雑です(^^;)まあそう思えるうちはだいじょぶだと思いますけどね。わたし1人じゃないし(^^)自分を支えてくれる人間が自分の中にもたくさんいるっていうこの素晴らしさ!頑張りますよ~!!!
まずは暴力的な誰かさんに飲み込まれないように、ねb
ワンスアポンアタイム
こんにちは!!!
またついった登録してきました!!!よかったら見てやってください!!!!
→http://twitter.com/vi0122
今回は本当にただの芦野のつぶやきというか日記というか思ったことというか要するにつぶやきですけどね・・・ヒマつぶしにはなるかもしれませんのでぜひぜひ(^^)自分もやっとるで!という方、フォローとかぜひぜひ(^^)身内とかおんなじ趣味やなこの方という人ならフォロー返しにいきます。ますすすす。
最近グリーをやめてみくしい一本にしてみたらなんか楽しすぎてヒマがありません。みくしとついった見るだけに日々を費やしている気がします。他の時間はほぼ寝てる。大変よろしくないですねわかります(^ω^)新しい人格が増えたよんて話はしましたが、新しい子が増えれば増えるほどわたしの記憶はどんどんなくなっていくので今全然昔のこととか思い出せなくて、なんかいきなり今のわたしとしてぽいっと生まれてきたみたいで逆にとてもすがすがしいきもちです。なんでだろ。友達に会いに行きたいです。・・・行けないけどさ!!!!キィ~~~~~~~!!!!!!
あー・・・花とか育ててみようかな
1度は書いてみたかった
※DRRR!!
※静雄と臨也(サイケデリック臨也)
※ちなみにサイケデリック臨也はDVD特典のサントラジャケ臨也さんです。見た目はね。
[平和島静雄]
折原臨也が死んだのは突然のことだった。
あんなに死から程遠いところにいる男も珍しいと思っていたのに(もちろん自分は別だ)、あの男はその予想を覆してあっけなく逝っちまった。まああいつは人の予想を覆すのが大好きな男だったからそれで本望なんだろう。前に俺は天国へ行きたいとかあほみたいなこと抜かしてやがったがそれが叶えられたかはしらない。ただ、そんなあほみたいなことはあんなあほが願ったところで簡単に叶えられやしないだろうということはバカな俺にも理解はできた。なので俺は死んだあとの世界というやつを作ってやることにした。あんな厭な男のためにだ。笑える話だよな。むしろ泣けるな。俺は表彰モンのやさしさの塊だ。しかし俺には世界を作る技術なんてない。まして死後の世界なんて見たこともねえものを作る技術はない。つーかそんなもん作れる奴この世にひとりとしていないだろう。いたとしたならノーベル賞モンだ。というわけで俺は俺にできる形であいつを蘇らせてやることにした。一度死んでもう一度目覚めたならそこは死後の世界と同義だろう?たぶんそうだ。いやきっとそうだ。だって新羅がそう言った。新羅は変態だが医者としての腕と知識だけは信頼できる。俺は奴に頼んだ。折原臨也を蘇らせてくれと。あいつは普通に嫌な顔をした。そして断った。俺は生きている人間の治療をしたことはあるけど死んだ人間の治療はしたことないよ。ましてや蘇らすだなんて。むしろ静雄の治療をしたほうがいいんじゃないのかい。同情で安くしといてあげるよ。俺は思わず新羅の頬を思い切りぶん殴るところだったがそれじゃあいつを蘇らすという俺のやさしさは儚く消えて散ってしまう。ぐっとこらえて頼み続けた。そのうち根負けしたのか新羅は了承してくれた。ただし、姿かたちは似せることはできるけど、記憶がすべてきちんと彼に入ってくれるかはわからないよ。成功する確率は20%を切る。それでもいいね。新羅はそう言った。俺はあいつがもう一度酸素を吸えるならそれでいいとそう言った。君たちは本当に・・・そう言って新羅はためいきを吐いた。
そして彼はもう一度生まれた。
白いベッドの上ライトに照らされて横たわる姿はまさしく臨也だった。臨也そのものだった。ただひとつ違うのは彼の頭にはヘッドフォンに似た何かが装着されていたことだ。ヘッドフォンを耳に当てた彼は静かに呼吸をしていた。薄い腹がゆるやかに上下する。新羅、おまえすげえな、素直にそう言えば、新羅はすこし困ったように眉を下げてこう言った。褒めるのはまだ早いよ。これはまだ臨也じゃない。中身がないんだ。何度も試しているんだけど、彼の記憶を送り込むことがどうしてもできない。もうあとは君に任せるよ。なんせ、彼を一番しっているのは君だろうからね。色んな意味で。あと、彼は今の状態ではただの器だ。僕はサイケデリックと呼んでいる。何度も言うようだけど彼は・・・臨也じゃないからね。ばたん、新羅が静かに音を立てて部屋を出て行く。俺は勝手に椅子を引っ張り出してその”臨也でないもの”の傍に座り込んだ。すうすうと静かに呼吸する姿は人間でないという事実を忘れさせる。必要以上に整った目鼻立ちにあいつを思い出す。普段いやらしい笑顔を剥がすことのなかった奴は眠っているときだけは穏やかな顔をしていた。俺はその顔を眺めるのが好きだったのだ。あいつが起きてしまったら否が応でも殺し合わなければならなかったから。だが、今俺はこいつが目覚めるのを心待ちにしていた。たとえその瞬間殺し合わなければならないとしても。俺はそのときを楽しみにしていた。そうと手を伸ばしてさらさらの黒髪とその下に隠れた額に触れる。すると彼に変化が起きた。ふるりとまつげが揺れ、赤い瞳が覗いた。ぱちぱちとまばたきをする。臨也、そう呼ぼうと口を開くと、彼は臨也の顔をして俺を見詰め、「・・・だれ?」と言った。体が凍る。そうだ、新羅にあれほど言われたではないか。彼は臨也ではない。今は、まだ。サイケデリック。それが彼の名前なのだ。「ねえ、だれなの?」彼は不安げに俺を見上げる。「俺は、」俺はすうと息を吸って彼と向き合う。「俺は平和島静雄だ」「へいわじま・・・?」その口が呼んだ名前に違和感を覚えた。「あ、ああ」あいつにそっくりな薄いくちびるはあいつにそっくりな青空のような声で言う。「よろしくね、平和島」
[岸谷新羅]
折原臨也が死亡することはわかっていた。
彼はそのことを静雄にだけは言わないでくれと言った。そのうつくしい顔には死の影は微塵もなかった。いつもどおりに厭な笑みを貼り付けて彼は嬉しそうに頼むよ、と言った。どうして?といちおう聞いた俺に彼は、だってそういうことは突然じゃないとおもしろくないじゃないか、と言って笑った。そしてああ、そのときの彼の顔が楽しみだよ。俺が死んだらシズちゃんはどういう顔をするんだろうね?なんて言うもんだから悪趣味だよと詰ってみせた。すると彼は、だけどその顔を俺は見れないんだ。もう二度と俺のことを殺すことはできないとしったときのシズちゃんの顔を。すごく楽しみなのに。と笑顔を消して悲しげに呟いて見せたのだ。新羅。彼は急に顔を上げて僕の名を呼んだ。なんだい、かるく問い返すと、俺の死体は燃やさないでくれ。と言う。俺の死体は燃やさないでくれ。俺の体は殺さないで。残しておいて。俺は死にたくない。俺が生きたという事実を消したくないんだ。お願いだよ新羅、消さないで。彼は私の知る中でもとても情緒不安定な人間だったけれど、これほど必死な彼を俺は今まで見たことがなかった。私はわかった、わかったよ燃やさないよと約束した。彼はあからさまにほっとした顔をしてありがとう新羅、と言った。彼が素直に礼を言うなんてこともまためずらしいことだった。死というのは人をここまで変えるのかと俺は未知の扉を見詰めるようなきもちで思った。僕はきっと死を前にしてもあまり変わらないだろう。なぜなら俺にはセルティがいるからだ。セルティは人間じゃない。私の死を見届けてそしていつまでも生き続けるだろう。僕が願うのは僕が死ぬときにセルティが必要以上に悲しまないといい、ただそれだけだ。私はセルティを愛しセルティに愛されたという記憶だけを持って穏やかに逝く。それをセルティにも穏やかなきもちで見届けて欲しい。彼女の涙は見たくなかった。しかし臨也は違うだろう。彼はひとりだ。彼はひとりで生きることを選んだ。彼は静雄を選んだのに、傍にいることは選ばなかった。そんな彼にとって消えることはとても怖いことなのだろう。彼は自分の存在が彼の中から消えていくことを恐れている。自分が消えればなにもかもがなくなると、それを恐れている。そしてそれはある部分では正しい。だから私は彼に何も言わない。彼はしばらくのあいだ身長のわりに細い体躯をソファに投げ出してコーヒーをすすっていた。俺が出したコーヒーがすこし苦かったのか眉根を寄せている。ねえ新羅。コーヒーへの文句でも言われるのかとちらとそちらに目をやって目だけでなんだいと聞くと、もうひとつ、お願いがあるんだとこの男にしてはありえないほど殊勝な声音で言った。新羅を優秀な医者と見込んでのお願いだよと彼は言った。それは研究者である親父も指してのことだったろう。俺の記憶、生まれてから今までのすべての記憶を、データにして残して欲しいんだ。そう彼は言った。体を残すことよりこっちのが難しいだろうということはわかってるんだ。だけど体だけ残ったって俺じゃない。俺は俺としてこの世界に存在し続けたいんだよ。俺は、もう一度、天国でもいい、シズちゃんに会いたいんだ。そう言った彼に私はわかったと言った。ありがとうと彼は今まで見たこともないくらい穏やかな顔をして言った。そして折原臨也は死んだ。3日後、ある人物が俺の家のドアを叩いた。平和島静雄が、そこには立っていた
[サイケデリック]
目が覚めたら白い部屋にいた。どこかで見たことのあるような金色がきらきらと光っている。段々クリアになっていく視界の中に、不安げにこちらを見詰める男がいた。背が高い。男のてのひらがいままで俺の頭を撫でていたようだ。心地よさに目を閉じる。俺はこの感触を知っている。そんな気がした。やさしそうなその瞳を見詰めて「・・・だれ?」と聞いてみた。途端に男は驚いたように目を見開いた。今の質問はそんなにおかしかったのだろうか。もしかしたら俺はこの人を知っていて当然なのかもしれない。だからこの人はこんなに驚いたのかも。記憶の中を探ってみる。だめだ、思い出せない。それどころか俺は自分のことを含めて何一つ覚えていないことに気づいた。なんでだろう?そもそもなんでこんな白いところにいるんだろう?ていうかここどこ?俺の頭を疑問の嵐が通り過ぎるが、まずは目の前の男のことだと思った。もし俺の知り合いなら俺のことを教えてくれるかもしれない。もう一度聞いてみる。「ねえ、だれなの?」「俺は、」彼はすうと息を吸い込んでこう言った。「俺は、平和島静雄だ」「へいわじま・・・?」へいわじましずおへいわじましずおへいわじましずお。平和島、静雄。頭の中で何度も何度も繰り返す。脊髄あたりが痺れるような感覚がした。「よろしくね、平和島」俺は知らず微笑んでいた。
おまえの名前はサイケデリックだと平和島は言った。
その友達だというシンラという眼鏡に白衣の青年が俺を作ったのだという。どうやって作ったの?と聞くと、それは企業秘密だよとシンラはやわらかく微笑んだ。俺は平和島と暮らすことになった。週に1度、シンラの”メンテナンス”を受けるのが条件だという。メンテナンスって何?と聞くと元気をはかるんだよとシンラは言った。平和島の部屋はせまかった。豚小屋みたいだねと言うとおまえ口の悪さはあいつと変わらねえんだなと平和島は言った。イザヤだったらぶっ殺してるところだと平和島が言うからイザヤって誰?と聞いたら平和島は気まずそうに押し黙ってしまった。触れてはいけないことだったのかもしれない。しばらくすると平和島は、おまえ腹減ってるか?それとも風呂にするか?と聞いてきた。なにか食べるものあるの?と聞いたらちょっと待ってろ、と言って平和島は厨房に消えた。すこしして甘い食欲をそそる匂いが漂ってきた。俺はこの匂いはとても好きだと思った。そのあと平和島が持ってきたのは焦げ付いたパンみたいなものだった。なにこれ?と聞くとフレンチトーストだと平和島は答えた。おまえ好きだったろ、と言ってくる。それはしらないけどこれはおいしい、というと平和島は満足そうな顔をした。そのあとお風呂に入った。ひとりで入れるか?と平和島は心配そうな顔で聞いてきたけど、当たり前だろ、俺いくつだと思ってるんだよ25だよ、と答えてひとりで入った。あとでなんで俺自分が25だって思ったんだろうってふしぎに思った。だって俺はシンラに作られたばかりのはずだ。25歳って。おかしすぎる。風呂場に置いてあったシャンプーはなぜか嗅いだことのある匂いに思えた。俺はこの匂いがとても好きだったような気がする。白いふとんに埋もれた金色の髪が目蓋の裏に見えた。平和島の髪だろうか。俺にはさっそくバグが発生しているのかもしれない。早くシンラに見てもらわないと。この話を平和島にしたら変な顔をされた。やっぱり俺どっかおかしいんだ。そう訴えたら平和島はおまえはどこもおかしくねえよと言った。おかしいのは俺のほうだ、と。その言葉の意味を聞きたかったけれど頭をがしがし掻き回されて、おまえはもう寝ろとふとんに押し込まれてしまった。あの言葉の意味は覚えていたら明日聞こう。
[平和島静雄]
臨也のためだなんてウソだと俺は気づいていたのかもしれない。目の前のサイケを見ながら俺は思う。俺は頭が悪いので自分のきもちすらはっきりと言葉にすることはできない。そのことで臨也には散々バカにされたものだ。あいつは言葉にするのに長けていた。それこそウソでもなんでも言葉にして本当のように見せかけることができるくらいには。俺にはダメだ。そんなことはできない。そんなふうになりたいとも思わない。ただ、そんなあいつを懐かしくは思う。戻ってきて欲しいと、思う。あんなにも嫌いで仕方なかったのにおかしいものだ。ずっと殺す殺すと思い続けたというのに死んでしまえば生き返ってくれと思う。人間と言うのは矛盾のかたまりなんだろうか。俺は今まで人様の相反した言葉に「んなのおかしいだろうがあああ!」とキレたりしてきたが、実際そんな資格はないのかもしれない。今度からもうちょっとキレないよう努力してみよう。そんなことをつらつらと考えている俺の横で、ノミ蟲にそっくりな顔をした男はノミ蟲とまったく違う何の他意もなさそうな愛らしい笑みを浮かべてテレビ番組を見ている。俺にとってはよくあるバラエティにしか思えず、とくにおもしろいということもない内容だがこいつにとっては違うようだ。出演者が場を沸かせるたびに一緒になって笑っている。臨也とこういう番組を見ると出演者や番組の演出について長々講釈を垂れられて、くそおもしろくねえったらなかった。それが原因でよく殺し合いの喧嘩をしたものだ。番組が終わり、CMに入るとふうと息を吐いたサイケがこちらを振り返り「ねえ、平和島」と声をかけてきた。こいつのこの呼び方だけはどうしても慣れねえ。「シズちゃん」と呼ぶあいつの声が頭をよぎる。あんなにも嫌だった呼び名にもかかわらず俺はサイケにもそう呼ばれたいと願っている。あいつをもう一度この手に戻したいと、そう願っている。
「ねえ平和島」
「なんだよ」
「あそこにはたくさん人がいるけどさ、あの中にも俺みたいにシンラみたいなお医者さんに作られた人間がいるのかな」サイケは無邪気に疑問をぶつけてくる。
「・・・いねえよ」たぶん、ひとりも。
「ふうん」考え込むように呟くサイケを見て、思わず腕を伸ばしその細い体躯を抱きしめる。
ああ、俺は、ばかだ。たぶんこの世の誰よりもずっと。だけどそれでも俺は、あのころの臨也に、ここに戻ってきて欲しい。
[サイケデリック]
今日もまたメンテナンスだ。「行くぞ」と言った平和島は俺の目を見ない。近頃平和島はずっとそうだ。同じ家にいるのに、絶対に俺の顔を見ようとしない。たまに目が合ったりすると、すごく辛そうな顔をして何か言いたそうにするんだ。だけど結局何も言わずに、平和島は目をそらす。いっつもそうだ。俺はたったひとりしかいないのだと平和島は言った。俺みたいに作られた人間はひとりしかいないのだと。なら、どうして俺はわざわざ作られたんだろう。そもそも納得がいかないことだらけなのだ。ここで暮らし始めて数ヶ月が過ぎたけれど、俺はここをもっと前からしっている気がしてならない。机の位置、椅子、俺の定位置。ベッドの上から見るテレビ。そのわきのリモコン。からっぽの冷蔵庫も何度も見たような気がするし、そこを食材でいっぱいにしてやったことも何度もあるような気がする。俺は特別モノを食べなくても大丈夫だから、そんなことわざわざするはずもないのに。平和島がお仕事から帰ってくるときのがちゃりという玄関の鍵の音も何度も聞いたことがある気がする。それからなにより一緒のベッドで眠るときの平和島の寝顔。閉じられたまぶたにすこしだけ開けられたくちびる。俺はきっとこの感触をしっている。平和島に触れたことが、ある。だけど実際俺はそんなこと一度もしたことはないのだ。おかしい。俺の頭はバグだらけだ。しらない記憶がさも俺の記憶かのように俺の中に居座っている。1週間に1度のメンテナンスはきちんと受けていた。けれどシンラは俺がいくらバグを訴えたって大丈夫だよ、問題ないという。そもそも元気をはかるんだよと言っていたのに体はまるで見もせずに、俺の頭に変なのをいっぱい取り付けるのは、いったい何故なんだろう。「イザヤ、イザヤ、聞こえるか」と毎回毎回呼ばれるのは何故なんだろう。「イザヤ」っていうのはいったい誰なんだ。
俺の頭の中を疑問がぐるぐる回る。
けれど俺は今日もそんなことは悟られないように、笑顔で平和島を呼ぶ。手をつなぐ。「行こう」と言ってまるでシンラの家へ行くのを楽しみにしてたようなふりをする。だって俺は、平和島にずっと、俺だけを見ていて欲しい。
[岸谷新羅]
今日、静雄がサイケデリックを連れてメンテナンスに来た。最近の静雄には焦燥が見られる。たぶん彼との生活に戸惑い、疲れているんだろう。当然だ。なぜなら彼は臨也じゃない。静雄が求めているのは臨也なのだ。けれど静雄にはサイケデリックを見捨てることはできない。そもそもの性根のやさしさと、なによりサイケデリックの体が臨也のものであるという事実がそれの邪魔をする。静雄はきっとサイケデリックを愛してしまっているんだろう。彼は臨也ではないのに。そのことがより静雄を追い詰めている。ねえ、臨也、君は愛する静雄をこんなふうにしたかったのかい。心の中でもうこの世界には存在しない友人に問いかけてみる。彼からの返事はない。当然だ。だけどあの友人ならきっと性根の悪そうな笑みを浮かべて「さあ、どうだろうね」とか言ったりするんだろうなということは想像がついた。本当に厭な男だ。そんなところが僕は好きだったけどね。心の中でそっと呟く。今のサイケに違うものを感じているというのなら、きっと静雄もそうだったんだろう。いや、そうなんだ。彼はいまだにもうここに居ない臨也を求めている。「頼む」と言った静雄に「やっぱり彼に戻って欲しいのかい」と訊ねると、すこし目を泳がせて、ためらいがちに、「・・・ああ」と答えた。ふう、とためいきを吐いてサイケデリックに向き合う。彼の体を使ったサイケデリックは彼そのものの顔をしている。しかし浮かべている表情は似ても似つかぬものだ。「じゃあ、行こうか」声をかけるとサイケデリックは輝く瞳をやさしげにやわらげて、「うん」と言った。「今日はどれくらいで終わる?」
「いつもとそんなに変わらないよ」
「早めに終わらしてね!今日は平和島とタイタニックを見るって約束してるんだ」
ね?と静雄を無邪気に振り返るサイケデリックに静雄はやはりすこし目をそらしたまま「ああ」と答えた。そんな様子に再度ためいきを吐く。「じゃあ、ちょっと準備してくるから、そこらへんで適当に待っててね」そう言って俺は臨也の記憶をすくいあげる作業に入るため手術室へと足を向けた。
[サイケデリック]
その写真を見つけたのはたまたまだった。そこには俺が写っていた。学生服を着て、楽しそうに平和島に寄りかかるそれは間違いなく俺だった。見間違えようもない。胸の奥らへんがばくばくするのを感じた。思わずまわりをきょろきょろ見回す。平和島はソファに座ってコーヒーを飲みながらセルティとお話をしている。たぶん俺のことは見ていない。この写真の俺が「イザヤ」だ。俺は確信を持ってその写真を見下ろした。「イザヤ」は本当に、本当にしあわせそうに平和島に寄り添っていた。ちょっと性格が悪そうにも見えたけれど、今ここにいることがしあわせでたまらないという顔をしていた。平和島も、とても嫌そうにしていたけれど、「イザヤ」のことは嫌いではないんじゃないかと思わせるような顔をしていた。少なくとも俺は平和島のこんな顔は見たことがない。なんとなく口惜しいものを感じながら何気なく写真を裏返してみた。するとそこには驚くべきことが書かれていた。俺はしばらくその字を見たまま、体を動かすことができなかった。どれくらいの時間が経っただろう。シンラが奥の部屋から顔を出して「準備できたよー」と言った。俺はぱっと顔をあげて、1度平和島のほうを見た。そして「うん」と笑ってシンラの待つ手術室へと走っていった。
[サイケデリック]
あれから何年が経っただろう。俺と平和島は相変わらず一緒に暮らしている。
俺は相変わらず週に1度メンテナンスを受けに行くし、新羅とセルティも相変わらずラブラブだ。何も変わらない。ただ俺はしっている。平和島が夜、俺が寝たと思うと「臨也、起きてくれ。・・・愛してる」と囁いてはくちづけて泣いていることを。忘れられない思い出に囚われて俺を見ては傷ついていることを。だけど俺はしらないふりで笑う。いつまでも「サイケデリック」でいられるように、ただただ無邪気に笑う。
ねえシズちゃん、君はしらないだろう? 俺はもう君のことも彼のことだって、すべて思い出している。
プロフィール
ぎんたま、ばさら、おおふりを愛しています。テニヌの王子様、デュラララ!!に夢中です。愛、溢れ出ちゃう!
※解離性障害(多重人格・不随意運動ほか)を患っています。そのため更新も一人ではなく数人でおこなうことがあるかもしれません。ご了解下さいませ。
※ここに置いてある小説もどきみたいなんは、特に表記のない場合ぜんぶテニヌの王子様二次です。
※CPに節操はありません!お気をつけ下さい!